レオナは苦笑いを浮かべながらゴキブリのようにカサカサと後ずさる。


実はソフィアは医者で、腕がいいらしく、王都から呼ばれることもあるらしい。


実験なども好きなようで暇なレオナを見付けては実験台にしようと日々狙っているようだ。


その時のソフィアの表情を例えたら、それは腹を空かした獣の前に脂がのりにのった牛を放り投げるような物だろう。


やばいやばいやばいやばい………


どうこの注射器から逃れようかと冷汗ダラダラな牛レオナを見据える獣ソフィア。

本気で怖がるレオナの顔がそれはそれは……彼女にとってはかなり笑えるものであって…


「……ぷはっ!!」


……吹き出した。


「何笑ってんだよ!」


「ぷぷ、冗談だっつーの!
まーた私の本を借りにきたんだろ?
そんなことぐらい分かってんだよ!」



そう男っぽく豪快に笑い、レオナの頭をワシャワシャと撫でた。


レオナの風変わりな真っ赤な髪が四方八方に跳ね回る。



「じゃ、また本借りていいだろ?」



レオナが顔を輝かせてソフィアを見上げた。

ソフィアの家に本を借りに行くのが毎日唯一の楽しみなのである。



「あは★ダ・メ!!」



…お決まりのお言葉が返ってきた。



「そんなことより、早く帰れ!
仕事の邪魔!!」



猫を追い払うようにシッシッとレオナを外に追い出す。



「ケチっ!!」


「うるさいわ!
………………ん?」



その時、地響きのようなものが聞こえてきた。


よく、耳を澄ませば足音のよう。


しかも、でかいし速いし激しいし………


レオナは恐る恐る後ろに振り向いた。

最初に目に入ったのは…

肩より少し長い髪をヒモのようなもので二つに結び、女の子にも見える10歳くらいの男の子。

そんな少年が全力疾走でこちらにむかってくる…!

その表情といったら…何があったんだと真剣に聞きたくなる面持ち。



「ア、アラン………?!」


「レオナ〜〜〜〜!!」


「…なん、え、ぶつかるーーーーー!!」


ザザザザーーッ