薄暗い、ある一室。

大分溶けてしまった蝋燭が一つ、ぼんやりと室内を照らし、大小異なる二つの影を作り出していた。


一室……といっても、二人がやっとこさ入りきる狭いこの室内。

しかも、壁…にしては固くない原因、ビニール状の壁や天井に立ちはだかるようにして積んである本だの小物だのが処狭しとあり、更に狭い。


室内の中央に居座っている机を間に挟み、二つの大小異なる影は向かい合っていた。


小さな影は物珍しそうにちらちらと辺りを盗み見ている。
それを大きな影は尻目にも入れず、机に拠点をおく美しい光沢を放つ丸い水晶へ、酷く長く恐ろしい爪をもつ腕を伸ばしていた。


深くフードを被り、更に長い前髪が顔を覆うように伸びているため、その口元しか拝むことが出来ない。

そして、その唯一フードから覗く口元は……恐ろしいほど深い弧を描いていた。


ニタァ…、と更に笑みを深めると、牙のような奇妙な鋭く白い歯が唇から覗いた。


この男、元から口が大きいせいもあるが、……口が裂けているようで気持ちが悪い。

先程から怪しい動きを見せる色白の腕も速さを増し、水晶の上を回るようにぐるぐると旋回している。


その度に唇から荒い息遣いが漏れ、……ついつい苦々しい笑みを浮かべてしまう。







「ローゼリアン……ちょっとは落ち着きなよ」



大きな影の気味の悪い動きを見兼ねた小さな影が頬杖をついたまま溜息をついた。

ローゼリアンと呼ばれた大きな影は一瞬だけ動きを止め、また更に、ニタァ…と笑みを深めた。

実に楽しそうだ。






「何を言いますか、占星術を使う時のこの興奮……いや快感……!貴方には解りますまい!ウヒヒッ、ウヒヒヒヒヒヒッ!」


「わ、解りたくもないなあ……」




快感とやらに頬を紅潮させ、大振りに両手を振ってみせるローゼリアン。

小さな影は微かに震えたように見えた。