――――?!
結っていない髪を振り乱し、跳びずさるように背後を振り返った。
目を細め、ただ草木と黒い住宅が広がる大地を睨む。
……聞こえた、確かに聞こえたのだ。
まるで鳥の歌声のような…口笛。
その発進地はわからないが、確かに近くから聞こえた……。
「…スノーリアどうした?なんでそんなに警戒してんだ?」
「あれじゃないですか?寝不足でノイローゼ」
「え、……そうなのか?」
この際、隣でこそこそと話している男女二人は無視だ。
それに、いたって私は正常だ、……とは思いたいが。
目を閉じ、聴覚に全神経を研ぎ澄ます。
さわさわと少し肌寒い風。草木が擦り合い、風が住宅にぶつかりビューッと少し大きくなる音。
………感じない。
自然の音と、こそこそとだべる男女二人の声以外……何も。
確かに聞こえたはずなのに、気配はまるでない。
おかしい、おかしすぎる……。
……それとも、
「………空耳か?」
…それか幻聴か。
やばいな、……老化現象だろうか。
まだまだ若いつもりなのだが。
「おーいスノーリア?マジでおまえ大丈夫か?俺より休んでた方がいいって、マジで」
スノーリアの不審な行動に眉を潜めながら、怪訝そうに首を傾げて見上げてくるレオナ。
ヒサノも……まるで不審者でも見つけてしまった時のような視線を送ってくる。
「……いや、なんでもない。…部屋に戻るぞ、外は寒い」
ふっ、と肩の力を抜き二人に向き直ると、連行するかのように二人の背中を押した。
二人は「はーい」と力無い返事をしてとろとろと歩き始める。
チラリ、と立ち止まって振り返ると…スノーリアは背後に広がる光景を、睨んだ。
最近……嫌な感じがする。
まるで…悪い物か何かがじわじわと近付いて来ているような気がしてならない。
もう一睨みすると、……踵を返して二人の後を追った。



