「だーるぅ……」



そこはある一室。

なかなか広いこの豪華な一室のソファに怠そうに伸びているのは気品も何もなさそうな女。


ソファは一人一台………向かい合うようにして十程の黒いソファが静かに佇んでいた。



「ありえないありえないありえないありえない……なんでこんな大仕事……マジめんどくせえ…」



そうぶつぶつと先程から呟いている伸びた女…、鮮やかで艶がよく映える藍色の短い髪がソファの上でサラリと広がる。

こういうのをお行儀が悪いというのだろうか……その細い形のいい両足を大きく開いて周りの目なんか気にしていない様子だ。


そんな彼女の隣から短い溜息が聞こえた。





「………行儀が悪いよ先輩、もっとしゃんとしてよ先輩、話し合いなんだからさ一応」


「だってダリィ………」


「理由になってないから先輩」



そう先輩に冷たく言い捨てた彼女はだらける先輩から目を逸らし、再び手にとっている書類へと視線を落とした。


そんな後輩のかわりに次に発せられたのは、先程の落ち着いたものではなく、少し間の抜けるような甲高い声。



「そうアル!!アタシも思ってたケド、ジャンナはチョットだらけすぎネ!!」



……少し特徴的すぎる喋り方だが、彼女の生まれ育った故郷の方便だ。仕方がない。


注意したつもりが、思いの外うるさい声の彼女を落ち着かせようと次に響くのは……やんわりとしたテノールとは言い難いアルトの声だった。




「……シー・チェン、今は会議中だから、静かにしようね?」



紳士のように優しく微笑み、隣の席の彼女……シー・チェンの肩にそっと手をおく少年。

まだあどけなさが残る端正な顔立ちに色白の肌が黒いソファによく映える。

そんな彼に素直なシー・チェンは元気よく頷いた。



「わかったアル!アタシ静かにするヨ!!」


「うん、ありがとう。
……ジャンナも女性なんだからそんな股開かずに行儀よく座ってなよ」


「いや、断る。この体制が一番楽なんだよ」




こういうものを我が儘だと言うのだろうか…、ジャンナと呼ばれた行儀の悪い彼女に溜息をつく少年の姿が見えた。