「けほっ………。
な、なんて埃の量だ…。
相当古い本なんだな……」


「それがですねー、実はこの本………」



真っ黒な主人のシャツにかかった埃を優しく丁寧に掃いながら、ジョージは得意げにふふんと笑みをつくる。


埃が舞い散った時の何とも言えない怒りから、無意識にサロナが放り投げたかわいそうな本を片手に笑むジョージはなんだか少し腹が立った。



「これ、だーいぶ古い本みたいです。
ほら見てください」



本を持っていない片手を振り上げ、綺麗な笑みを浮かべながら部下は素晴らしく華麗な婉曲をかいて……

………本を打っ叩いた。














本人は何を思ってそんな行動に出たのかはわからない。

だが、彼のその無邪気な行動によって、主人の表情は驚きと焦りと怒りにみるみると様変わりしていくことになる。













―――バシンッ

気持ちのいい程乾いた音。

そんな音を出してなんになるのか、と思った瞬間……それはおこった。














強く打ち付けた掌から紙吹雪のように大量な埃吹雪が舞い散った。


それはジョージだけではなく、それを見上げていたサロナにも当然として降り懸かるわけで…。




埃吹雪は黒いシャツと紺の制服を汚らしい灰色に染め上げた。

激しく咳込む汚れた二人。













「げっほ………、…サロナ様……ご無事でなにより……」


「…なんにが無事だ阿呆ぉぉッ!!!
この汚れた姿どうしてくれんだこの無駄美青年ーー!げほごほッ!!」


「おおっ、それは褒め言葉ですか!?ありがとうございます!!」


「嫌味だボケェ!!」















すっかり埃を被った二人…怒り狂う主人と鎮めようとする部下。

本の埃を払うつもりが、あまりに勢いづいてしまったらしいジョージのせいでかなりの年代物である本はページが全て飛散してしまった。


元は本だった数十枚の紙は、まるで二人を馬鹿にするようにハラハラと美しく舞い落ちてきた。