ゴッドネス・ティア

「そろそろ帰ろっか。
風もちょっと強くなってきたことだし、風邪ひいちゃうからね」



母はそう言うと、淡い桃色の薄い生地のスカートをフワリと踊らせながら立ち上がった。


ピューッと一際強く冷たい風が吹いてきて、母の肩にもかからない短い赤い髪を弄ぶ。


風が止むと女性はボサボサになった髪を不快そうに手櫛で直すのをよく見るが、

母アメリスはそんな細かいことは気にしない性格であり、四方八方に髪をはねさせたままレオナを笑顔で見下ろした。


もとから癖の強い髪だからか、いつもの髪型ととくにかわりないのが凄い。



「………………あらぁ？」


「どうしたのお母さん？」



レオナを抱き起こそうと軽く腰を屈めると、アメリスはふと目線を動かした。


目線はそのまま上昇し、


………空へ、


そしてまた、風が吹いた。


今度は気持ちいいと感じる程、優しく。



「………あの人が帰って来たわ」


「……あの人って…もしかして…」


「…うふふ♪」


「ぇ、ぅ、うわっ！」



しばらく空に目を泳がせていたアメリスは、今度は嬉しそうに頬を朱に染めながらレオナを勢いよく抱き起こした。


案の定、レオナは体制を崩して前につんのめる。


それをアメリスがレオナを包むように抱き留めた。


そして耳元で囁く。







「お父さんが、帰って来たのよ」