ゴッドネス・ティア

「これから長い間ね、生きてくでしょう?
やっぱり嫌いな人とか、苦手な人とか…いっぱい出会うと思うの」


「…うん」


「私ね、小さいころに、仲のいいお姉さんがいてね、いつも遊んでもらってたの。
そのお姉さんの言い伝えなんだけど…」


まるで幸せをまとっているような、そんな微笑みを見せながらお姉さんの話をする母は、本当に幸せそうで、

あんまり幸せそうだからこっちから口は出せやしない。

でも、母が一つ一つ一生懸命話すから、こっちも一つ一つ頷いて一生懸命聞く。

一つ、大きく深呼吸して、

母はまた口を開いた。


「今、風が吹いてるでしょ?」


ふわふわと髪を揺らす風。

それを手で探るように仰ぐ。



「この風はね、風神様が吹かせてくれててね、当たり前のものじゃないんだよ。

この草も、花もね、水も…私が当たり前のように見たり使ったりしてるけど……本当は当たり前じゃない。

人も…本当に奇跡みたいな確率で出会って別れてまた出会う。

……それってすごいことよね?

あんまり…上手に言えないんだけどね…、お母さんはいろんなものに感謝してほしいの。

ほら、こうやって今レオナ話してることだって…奇跡かもしれないんだよ?

仲のよかったお姉さんはね…、


"全ての大人を、自分の親だと思って尊敬しなさい。

同年代の子は、自分の兄弟姉妹だと思いって大切にしなさい。

そして、あなたが大人になったとき…、
世界中の子供を、自分の本当の子供だと思って護りぬきなさい。


そうしたら、みんなのことが自然と愛しくなる。

そう思える自分を愛することが出来る。

そういう自分を愛してくれる人が……、自分でも信じられないくらい掛け替えのない人になる。

……そう考えれば、人を愛することなんて、簡単なことじゃない?"


……てね」



母はまた少女のようにはかなく、美しく微笑んだ。

母は自分に、人を愛することを知ってほしかったのか、

話してる最中、ずっとレオナの手を握ってた。

口べたで、説明も下手な母だけど、

一生懸命話してる母を見たら、

ジャンが嫌いとかなんとか言ってたことなんかどうでもよくなってた。