ゴッドネス・ティア

「お母さんね…人を嫌いになるって、どうしてもできないのよ…」



ぽつりぽつり、一つずつ、ゆっくりと。


母はまたニコニコと笑みを浮かべながら、

けれどさっきとはまた違う真面目顔。



「どうして?
嫌いになる人いないの?
近所のおばあさんはお母さんにもみんなにも意地悪だよ」


「んー……嫌いっていうか…、どうしてかしらねぇ。
みんな好きってわけでもないんだけど、みんなそれぞれ個性があって、いろんなところ尊敬できるわ。

それに、その意地悪なおばあさんも心の底から意地悪じゃないのよ、知ってる?
あのおばあさんはね、この村を誰よりも愛してると思うの」


「……どうしてそう思うの?」


「…………どうしてかしら」



ゆっくりと、母がこちらを振り返る。

同時にずーっと向こうからこれから冬に向かうちょっと冷たい風が吹いてきて、

レオナとアメリスの、血のように赤い髪を弄んだ。



「人って……きっとそういうものなのよ…」



そう微笑みかける母は、

とても、美しく、

はかなく見えた。


でも、その瞳に宿る光りは強くて、

何かを護るような、


そんな覚悟ができた、

まばゆい光。





「レオナ、聞いてね…」


「うん……」



のんびりで、

緊張感なくて、

危なっかしい、

そんな母だけど、



この美しく、

はかない、

強い光を宿した母はレオナにとって、

とても誇らしかった。