ゴッドネス・ティア

親子の愛劇の後、木登りでは無理だと判断した二人は結局ブラッディベリー狩りを断念することになった。


だが、このままでは不完全燃焼なのか、二人は空っぽのカゴを持ったままブラッディツリーの生息地から少し離れた丘へと移動していた。


風が気持ち良く、ここもこの二人のとっておきの場所。


春は暖かな春と花の香りを運び、

夏は涼しい海のにおい、

秋には少し冷たくなった風と共に枯れだした草木、

冬には鼻の奥を凍らすような冷たさと雪を、



このパオーレ近辺にはこの世界には珍しく四季がある。


この丘は風を通じてその季節を感じることができた。


どれも美しく、このパオーレに住んでいてよかったと思える瞬間だった。



















「それでさ、酷いんだよジャンの奴!
僕のこの髪を馬鹿にして!!」



ふさふさとまるで生まれたての赤子の髪のような草原に座りこんだ親子は何故か雑談を始めた。


たしかにこの丘は見渡す限り草原で、とくに採りたいと思う実もない。


ゆっくり深呼吸すると秋のにおいが鼻の奥をくすぐる。



「僕の髪のことを言う前に自分はどうなんだよってかんじだよね。
まったく、腹が立っちゃう!!」



雑談を始めたはいいが、どうしてかがき大将ジャンの話に発展してしまったらしい。


話し始めると止まらない今までの愚痴の数々。


今晴らさないでいつ晴らすのか、とペラペラこの口から出るこの鬱憤を、母は苦い顔せずニコニコと聞いている。


母の場合、このニコニコは真剣に物事を取り組んでいるときのものだ。


母はいつでもどこでも微笑みを絶やすことはない。


だが、何年も同じ時を過ごしていると微かな表情の違いに気付くのだ。


現在のニコニコは真面目顔。ほら、眉間にシワが寄ってる。