ガタン…ガタゴト…ッガタン…



馬車は砂利道で揺れていた。

馬車を引っ張っているのは牛にしか見えない太った馬だ。

重たい体と馬車を涼しい顔して楽々と動かしている。


この十人程乗れる大きな馬車を動かせるのはその体型のおかげともいえる。


人が一人乗れる幅の小さな正面のベランダに胡座をかいた少女が腰かけていた。

馬車の揺れと同時に淡い水色のポニーテールの長い髪が揺れる。


そのテンポと共に口笛をヒュッと鳴らす。

国歌だ。


美しく優しくそして気高いメロディと口笛。

少女がどれだけ国を愛しているかわかる。


曲も中盤に差し掛かったところで後ろの扉が開いた。

誰だ、と後ろを振り返る。



「華蓮ちゃん何してるの?雨降るかもしれないから中に入んなさい」



そこには自分の先輩であるミン・リュンマが優しく微笑みながら立っていた。

王都一と言われるその顔立ちで少しウェーブがかかった紺色の美しい髪をサラリとはらう。

女の華蓮でさえもうっとりしてしまうその仕種で、彼女はどれだけの男を虜にしてきたのだろう。



「…リュンマさん……曇りですけど…?」



天気を確かめるように空を見上げる。

と、同時にポツポツと冷たいものが降り出した。



「ほらっ、降った降った!早く中に入ろう、風邪ひいちゃうっ!」



リュンマは無理矢理に華蓮を立たせた。

こんな華奢な体のどこにこんな力があるんだか。



「あ、あとこれ、ル・メイから」



手に持っていた掌サイズの小さな手紙を華蓮に渡すリュンマ。



「さっきの喧嘩凄かったね。華蓮ちゃん凄い剣幕だったよ」

「そうですか?」

「そうだよー、その手紙はル・メイからゴメンナサイの手紙かな。
口で言えばいいのにね」

「そうですねー…」



華蓮はつい先程、犬猿仲間であるル・メイと口論という名の激しい殴り合い、簡単に言えば喧嘩をしたのである。

激しいすぎるの喧嘩の理由はジャガ芋の取り合い。


二人はいつもそんな馬鹿らしい理由で派手な喧嘩をしているのである。