「あんたは家に帰って掃除でもしとけば?」



あの後、少々乱闘があったが、規模は小さくすんだ。

男の頬には痛々しい紅葉型の赤い痕がくっきりと残っている。



「掃除か…そうだな。正直あの蜘蛛には会いたくないけど……これも愛しい愛しい愛しい愛しい息子のため……っ!」


「あーはいはい、頑張れよ」



そう言うと、二人は立ち上がり、ドアへ向かった。



「じゃあ、かっぽう着でも着てやりますかー」


「オバハンと間違えられんなよ」


「あはは、そんなわけないって、ソフィアじゃあるまいしグへッ!!」



男の失礼発言にソフィアの重い蹴りが男の背中に炸裂した。

情けない悲鳴をあげて家の外へ転がって行く。



「い、痛い……っ」


「自業自得だ、大馬鹿者めが」


「ぅう〜〜〜〜〜〜っ」



痛む背中を出来るだけ庇いながら、どっこいしょと立ち上がる奴を睨みつけるソフィア。

奴の姿はこんなときだけ年寄りくさい。



「ご、ごめんって…だからそんな怪物みたいな目で睨むなよ…」


「まだ言うか!レオナが失礼な奴に育ったのは実はあんたが原因だったんだね?!」


「そんなこと知らないよー!!」



いまだ鋭い睨みをきかせてくるソフィアの怒声から逃れようと一目散に駆けて行く。

そのまま家に帰っていくつもりなのだろうか、止まる気配はない。



「――…クラウス!」



一言、彼の名を呼んだ。

男…いや、クラウスはビクリと肩をはねさせ、ゆっくりとこちらを振り返る。


きっとまた怒声が飛んでくるのだろうと罰の悪そうな顔をして、ソフィアを見た。


……だが、彼女は微笑んでいた。



「たまにならご飯食べに来な!おまえの好きなチーズハンバーグつくってやるよ!」



そう、満面の笑みで彼女は言った。

それは、もう遠い彼方へ行ってしまった愛しい人と重なって、どこか切ない。



「……………ああ!ありがとう、ソフィア」



本当に嬉しそうにクラウスは微笑むと、踵を返して走った。