そんな僕の言葉を嘲笑うように薄くなり消えてゆく少年が指差す方向には、優実が息を切らしている。
『家へ行きましょう。』
途切れ途切れでそう言うと、僕の袖を掴んだ。
『優実…。』
それから僕は優実の心配をしつつ、少年のことで頭をいっぱいにしながら自宅へ向かった。

そこには、散乱した画材と引き裂かれた一枚の雪景色。
ナイフで黒く塗り潰されたその絵から、僕を責め立てるような視線を感じた。
『この部屋…あの絵は…』
優実がぽつりと呟くと、何だか自分が情けなくなって、羞恥心を隠すように、言った。
『失敗しただけだ。』
低い声が、部屋に響くと
優実の怯えた表情と散乱した部屋が、涙を出さずに泣いていた。

−今、僕は何処までも堕落している−

やり直したいと、今度こそは大切にしたいと願ったのは、この僕自身なのに、歴史は何一つ変わりやしない。
脳が興奮するのを知らせるように震え出した身体に、また悔しさを増して、拳を強く握った。
『優実、今日は家で休んでいてくれないか。』
綺麗に整理されていたはずの部屋が、一瞬にして散乱して、ただ一つ、あの絵だけが残された。
まるで僕を嘲笑うあの少年のように存在感を放って。