『無理しなくていいの、こうして二人で居られる時が幸せだから。』
優実のささやかな吐息と体温が、僕の肩に触れる。
ふっと春風が撫でるように、柔らかな微笑み。

その全てが愛おしくて、同時に悲しくて、そっと抱きしめると、胸の奥がじんじんと痛んで
僕の世界が、また色付くのを感じた。

『また、どうして、こんな時間に起きているんだい。』
自ら訪ねたにも関わらず、野暮な質問をしてしまった。
『何だか、あなたが来ると思ったの。』
くすり、と目を細めて言う。

優実は、優しく芯のある女性だ。
天真爛漫で、気の強いところもあり喧嘩も絶えなかったが、そんな彼女の魅力に惹かれたのは間違いない。
それだというのに、僕は何故か、不安に胸を膨らませていた。

優実の弱り切った身体にも対しても、だが
他に男がいるのではないか、と、実に不粋で愚かな妄想をしてしまった。