Silent.Winter

『これかい?ニイサン。』
下品なおやじが黄色く染まった歯を剥き出し、小指を立てて見せた。
『いいや、そんなものではないですよ。』
目の前に置かれた酒を手に取って−ああ、僕は変わっていないのか−
崩れた笑顔を返すと、奨められるまま酒を仰いだ。
朝になれば見知らぬ女が隣に寝ているのだろう。
歴史も景色も変わっても…僕は昔に戻ってしまったようだ。
その夜も、眠気と怠さだけに包み込まれた。

『起きろよ、オッサン』
『死んだのか?』
ついに僕は、口の悪い女にまで手を出したのか。
腫れぼったく重たい瞼を開けると、そこには未だ声変わりもしない幼い少年が居た。
『なんだ。僕は男に興味がないんだ。早く帰ってくれ。』
厄介ごとは面倒だ、と出て行くよう施すと、そいつは怪訝な顔をして出て行った。
『オッサンが望んだのに。』

意味の解らない朝に舌打ちをしてから身体を起こすと、そこは油臭い散らかったいつもの部屋ではなく綺麗に整頓されていた。
一つ頭を掻いてみると、掃除された部屋も飾り立てた絵も、あの頃と何一つ変わらないことに気付いた。
『あいつ、何だか解らないが、余計なことを。』
自然と眉間に皺が寄った。
幻を見た後でさえ、虚無感が凄まじく僕を襲い掛かるくらいなのに。
いや、これすらも幻なのだろうか。
壁に飾り立てられた額縁の中には、まだ若い頃の僕たちが微笑んでいる。

しかし、不思議な『それ』は起きた。
額縁の位置さえ変わっていない、幻を心地好く感じ始めた頃だった。