彼女との出会いは、あまり格好の良いものではなくて
お人よしな彼女が保証人になった闇金融の、取り立てをしていた。
家族とも疎遠になり、病に侵された身体で働けるわけもなく
ただただ怯える彼女を見ていられなくなったのは、僕だけではなかったはずだ。
しかし彼女は、そんな道から足を洗うきっかけとなってくれた。

美術大学を出てからも、僕は働かずに、絵は入賞さえせずに、気持ちは荒んでいくばかり。
酒を飲み煙草を吸い博打をする、堕落した生活の中で知人の勧誘で組に入り下っ端として取り立てていた。
あの頃、絵心なんていうものさえも捨てていただろう。
それでも散らかった部屋の中は、油臭くあり続けた。
『優実、今があるのは君のおかげなんだ。無理に描く絵なんて一つもなくなった。』
『全て、僕たちの幸せをありのまま描いた作品だ。』
『形は違えど原点は何も変わらない。』
歴史は変わる、景色も変わる、僕たちも変わる。
それでも原点は変わらない。
『そう。だから、私がここにいなくても、原点は変わらないの。』
重ねていた僕の手は、冷や汗をかいていた。
ただ寒さが身体を突き刺していて、痛みが何処とも言えない場所にへと広がってゆく。
『だからこそ、完成させて優実に見せたいんだ。無理なんてないさ。』
引き攣った笑顔が、矛盾を語ってしまっただろうか。
それすら、彼女には見通しなのだろうか……。

『優実って?』
そうか、それは五年前のことで、彼女はもうこの世界に存在しない。
幻を見るようになったのは、いつからだろうか。
あの雪景色は最後まで描けなかった、僕は最後まで格好の悪い人間だった。
おじさんと呼ばれる歳になっても、ただ一つ完成しない景色を、君は見られるようになったのだろうか。