優実を家まで送ったあと自宅まで戻り、画材と財布だけを持って、電車の時刻を確認する。
まだ真新しいスニーカーを履くと、息を思い切り吸い込み、一歩足を踏み出した。

絵心なんて格好のつけたものは、とうに捨てた。
優実の見た美しい景色を真似て、あの頃描いた、額縁に納められた愛情たちを
殺してしまったのは、間違いなく僕自身なのだろう。
出掛けよう、最後まで描けなかった、あの雪景色を、もう一度やり直しに。

かたん、と電車が揺れ続ける。
部屋を散乱させたのは、一体何なのか。
ぽつりと存在感を放ったあの絵は、僕に『描け』と言っているように感じた。
その挑発に、まんまと乗ったわけだが。

見慣れたホームへ降りると改札を通り、また見慣れた田舎道を歩いた。
あの絵を描き続けて、一体何年が経つのだろう。
たどり着いた場所には、冬を待つはげた山々が待ちそびえていた。

僕の、間違えてきた人生の数だけ
何度でも、繰り返し、筆を伸ばすのだろう。