「大翔~! お帰り!」
全て荷物を運び終わった頃に帰ってきた俺を、見つけた母さんが大きく手を振った。
「ただいま」
「丁度終わったところだから、自分の部屋ちゃんと確かめておいてね」
「ああ……」
短くそれだけ返すと、2階の階段を上がって左側の奥にある自分の部屋に向かう。
何度も引っ越しを経験してるし、慣れてるとはいえ、山積みになった段ボールを見るとつい溜め息が漏れる。
「……やるか」
鞄と上着を部屋の隅に置き、腕まくりをしてネクタイを緩める。
服が入った段ボールを見つけて、それに手をかけた時だった。
「ねぇ、大翔。ちょっと話があるんだけど」
キッチンの片付けをしていたはずの母さんが部屋にやってきて、改まってそんなことを言う。
「何だよ。今じゃないとダメな話?」
片付けをしながら返すと、気味悪いくらい母さんは上機嫌。
なんだ……?
こんなふうに言ってくる時は、たいてい想像もつかないことを言い出す時と決まってる。
だから、気にせず耳だけを傾けていた。
「もう、まりやちゃんに会った?」
「あ? ああ……同じ学校だったよ。でも、俺のこと覚えてないみたいだったけど」
「そうなの? でも、大丈夫!
すぐに思い出すわよ」
その根拠はどこから出てくるんだよ。

