私には大翔君が……大翔君だけなのに……。
頭も心の中もぐちゃぐちゃで、何も考えられない。
人の波を掻き分けながら、出口から出ると、空を覆う真っ暗な雲が私を見下ろしている。
さっきまで天気よかったのに。
まるで、私の今の気持ちを表すような空の色。
視界が歪んで、頬に冷たい雫が落ちてくる。
涙だと思っていたそれは、泣いてるように見えた黒い雲が降らせた雨。
ポツポツ降ってきた雨は、すぐにザァアーっと大きな音をたてて、地面を叩く。
周りの人が急ぎ足で雨宿りをする中、自分だけが取り残された気がして、重い足を前に動かす。
「……っ」
雨音に掻き消されるほど小さな声が、私の喉の奥から出た。
大翔君、私……どうしたらいいの……。
初めて味わう感情に、自分の心が追いつかない。
こんな時でも、私の頭に、目に、心に……全てに浮かぶのは、たった1人だけだった。