「ひ、大翔……君……っ」



声のした方を見ると、今帰ってきたばかりなのか、鞄を肩にかけたままリビングのドアのところに立ち尽くす大翔君が立っていた。



「何だ……もう帰ってきちゃったの。残念だな」



何もなかった顔をして私の上から退いた谷山君は、ソファにその体を沈める。



私もすぐに起き上がると、今されそうになった出来事が蘇ってきて、少し怖くなった。



心臓がドクドク音をたてる。



「お前……こいつに何した?」



聞いたことのない、明らかに怒った大翔君の声に心が落ち着かない。



「何もしてないよ」



しれっと答える谷山君の態度が大翔君の勘に触ったのか、何も言わずに近付いてくると、服を掴みあげて、ソファに座っていた谷山君を腕の力だけで立たせる。



「祥吾、あの条件忘れてないだろうな……?

守れないんなら、お前のことは即追い出すって言ったと思うけど……」



「ちゃんと覚えてるよ……っ。

“まりやに必要以上に近付くな。泣かせるようなことだけは絶対にするな。”でしょ」



苦しそうに顔を歪めて答える谷山君をソファに押しつけるようにして解放すると、大翔君がそのまま見下ろす。