まりやがすごく楽しみにしてたのをいちばん近くで見て知ってたから、余計に苦しくなった。



「ううん、私は大丈夫」



眉を下げて俺に笑ってくれたけど、まりやが無理してるのは顔を見ればすぐにわかる。



普通なら怒ってもいいはずなのに、きっと祥吾と有紗に気を遣ってるんだろうと思った。



まりやのいいところでもあるけど、俺にはもっとわがままを言って甘えてほしい。



そんなことを今思うのは、俺のわがままなのかもな……。



「ヒロ兄がそんなふうに女の人に優しく笑うところ、初めて見た。

ずっと従兄妹やってきたけど、あんなふうに接したもらったこと一度もない」



サラサラのまりやの髪から手を離したと同時に、その寂しそうな声が背後から聞こえてきた。



振り向くと、ベンチに座ったまま自分の膝の上で両手の拳をギュッと握りしめる有紗が俺を通して、まりやを真っ直ぐに見つめている。



その強い瞳に、まりやもどうしていいのかわからない様子でいた。



「ねぇ、まりやさんは……ヒロ兄のことどう想ってるの?」



「うーわ。その質問はド直球すぎでしょ、お前。

これだから空気の読めないお子ちゃまは困るんだよな」



横から茶々を入れる祥吾にキッと睨みを返した有紗が、履いていた5センチ近くはあるヒールのかかとで祥吾の足を思い切り踏んだのが見えた。



「い゛っ!? ……恨みこめて踏んだだろ……今」



余程痛かったのか、涙目になりながら声を震わせて弱々しい抗議を有紗に向ける祥吾に、何やってんだと呆れずにはいられない。