マイクのスイッチを入れたまま、曲の間奏中に宮内君が大翔君に振り向く。
「ヒロ〜ト〜! 何でお前歌わないの!
超歌うまいのに勿体ないだろ〜〜!!」
ロックテイストの歌を熱唱していた宮内君は、そのテンションのままマイク越しに大翔君に何度もお願いしていた。
大翔君、歌が上手なんだ。宮内君も凄く上手だし、その彼が言うくらいだからきっとすごく上手なんだろうな。
「うるせぇ……。俺はいいって言ってるだろ」
「え〜〜? 何だってぇ?」
ボリュームを大きくしてるせいで、大翔君の声が聞こえないのか耳を傾けてくる。
「だから、いいっつってんの」
「え〜〜? 何て言ってんのか聞こえないって」
もうすぐ間奏も終わるという時に、何度も訊き返す宮内君に大翔君はスッと目を閉じて静かに息を吸い込む。
「なぁ、大翔〜!」
「だから……歌わないっつってんだろ!!
しつこいんだよ、お前は!」
あの、あんまりしゃべらない大翔君が……大きな声なんて出したことがないあの大翔君が、お腹の底から大きな声で怒鳴ったのを初めて見た。
歌の間奏も終わり、いちばんの見せどころというところでそれが起きたために、宮内君も苦笑い。
「うわぁ。大翔がマジでキレた……。
こんな大きな声出すとこなんてみんなレアだから、写真撮った方がいいと思うよ」
もう曲なんてそっちのけで、今度は怒った大翔君を面白がる始末。
栞は、サイコーとか言いながら大笑いしてるし、谷山君も悪ノリしてスマホ出してカメラ向けて撮影しようとしてる。

