「ふーん。なるほどねぇ……」



微かに聞こえてきた呟き。



それが誰のものなのか、この時の私にはわからなかった。






「みんな気をつけて帰れよー」



お昼からの授業も無事に終わり、HRを終えた谷山先生は生徒たちを見送って声をかけていた。



大翔君は、今日の夕飯当番だから先に帰るって、宮内君と一緒に教室を出て行った。



今日はどんなものを作ってくれるのか、楽しみにしながら私も家に帰るために席を立つ。



「藤沢」



生徒がほとんどいなくなった教室で、それを見計らってたみたいに谷山先生に声をかけられた。



「少し時間あるか? ちょっと話しておきたいことがあって」



「……? はい」



谷山先生が改まって、私に話かけてくるなんて珍しいなと思いながら、教室から他の生徒がいなくなるのを待っていた。



「悪いな。残ってもらって」



「いえ。それで私に話って何ですか?」



言い難そうに笑うと、口を静かに開いた。



「弟の……祥吾のことなんだけどな。ヒロは……あ、松坂のことな。

ヒロは、あいつの性格をよく知ってるから心配ないと思うんだけど、藤沢は幼なじみだし、小さい頃にあいつと何度か遊んだことあるから言っておいた方がいいと思って」