フカヒレは、中国から乾燥した状態で木箱に入って届く。



高価で貴重なフカヒレは、厳重に梱包されており、その木箱を開けるのも一苦労だが、その後はもっと大変である。



苛性ソーダーで乾燥したフカヒレを炊いて、元に戻すのに2日はゆうに掛かって仕舞う。



それを水で丸一日晒してから、3日目からが俺達下っぱの仕事だ。



フカヒレの表面に付いている黒い皮を取り除いて、綺麗な黄色?(金色?)のところだけにするのだが、兎に角とっても柔らかく崩れやすい状態なのだ。



それを、姿煮に使えるように崩さないように作業するのだ。



慎重に丁寧に早く遣らなければいけない。



ノンビリしていたら、兄弟子さんや職人さんから大目玉を食らうのだから。



それでも、千切れたりボロボロになったものが出てしまうから、千切れたフカヒレのスープや、ほぐしたフカヘヒレのスープ等のメニューが有るわけだが、姿煮に比べたら全く値段が違う。



どっちが良いかは、お客さんの好みになってしまうけどね。



役得もある。



1日に1回くらいはスッポン料理のオーダーが通るのだが、生きたスッポンの血を飲ませてくれるのだ。



中国人は、って言うか、そこの職場の中国人は、スッポンの生き血を好まないのだ。



だから、いつも私にくれるのだ。



お陰で、どんなに忙しくても、夜遅くまで残業させられても、あまり眠たくならないし、結構元気に毎日過ごせていた。



スッポンの生き血、恐るべしだ!



生きた鯉も、毎日届く。



ウロコを掃除して、エラを外し、内蔵を抜いて水洗い!



真夏だろうが真冬だろうが、兎に角1匹の掃除に1分位でやらないと怒られてしまう。



生きた鯉は、結構大変なんだ。



それよりもっと大変なのが、これまた毎日届く生きた鯛である。



奴が暴れると、せびれが指を突き破るほどの怪我をすることも有るのだから。



実際、私も何回か怪我をして、レストランが入ってるビルの6階 にテナントで入っている病院で、縫合して貰ったことがある。



それよりも大変なのが、海燕の巣である。



これもフカヒレ同様、乾燥した状態で木箱に入って届く。



同じく、苛性ソーダーで炊いて、元に戻すのに2日は掛かる。



同じく、それを水で丸一日晒してから、3日目に掃除していくのだ。



海燕の巣は、海草や木切れ、自分の羽毛なんかを、海燕は唾液を使って固めていき、それが巣になっていくのだ。



だから、その海草や木切れ、自分の羽毛なんかを取り除いていくのが、俺達下っぱの仕事になるわけだ。



そして、要するに海燕の巣(俗にツバメの巣)と言われる物の正体は、海燕の唾液なのである。



正味、味は無い。臭いも殆ど無い。



何故美味だとか言われているのか良くわからない。



美味しいとすれば、それはツバメの巣と一緒に入っている別の具材の味とか、スープの味付けが上手だから旨いのだ。



ただ希少価値があるから、実際に獲れるのは断崖絶壁の崖の中腹だし、摂れても少量しか手に入らない。


手に入っても、食べれるようにするまでの工程が半端なく面倒臭い。



だから、高いのだ!



ツバメの巣のスープ、実際に入っている海燕の巣は3~40gだけだけど、その当時、値段は4,000円を越えていたんだから!