関わり合いにならないようにすると、
望まずしても
あちらからやってくる。






「Hey. せつら!!」

呼ばれそちらを向くと、
爽やか笑顔で迎えられた。




教室に一歩踏み込めば、
そこはジャングル並みで
クラスの女生徒は皆、
肉食獣のごとくおれを睨みつけてくる。

これも、こいつ、
メレディスのせいだ。


資料室以来、
何故かこいつは
事あるごとに近づいて来るようになった。


何がそうさせたのか.......。




お昼休憩のチャイムが鳴ると同時に、
おれは怜愛とよるに、
拉致られるように屋上へと連れて行かれた。

着くなり怜愛は
すかさずシートとお弁当、お茶の準備をした。

今日も美味そうなお弁当が並べられる。
すべて怜愛の手作りだ。
どれも美味な物なのは間違いない。
だから目にしただけで食欲をそそられる。

だが無情にも
二人からおあずけを食らう羽目となった。

   
「せつらさま、一体どういうことですか?」

突然切り出されても
何の事か分からない。

「え.....何が?」

「"何が?"ぢゃねーよ!! 何であの留学生はお前に纏わりつくようになってんだ!?」

二人に問い詰められるが、訳がわからないのは自分のほうだ。
本当に、急になのだから。

「知るか!おれだってわかんないんだよ。おれ、メレディス・フォード苦手だ。」

俺の言葉に、二人は鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。

「え?何故です?」

「わかんね。
ただ胡散臭くて.......?」


「はは、確かにー!そうかー!ならあっちの一方的な片思いだなー」

よるは一安心~と言いながらゲラゲラと嬉しそうに笑った。

いったい何が一安心なのかわからない。

だが満足したようでお茶を啜り始めた。

それを見て怜愛は一度ため息をつき、
表情を変えると同時に話題を変えた。


「まぁ、いいでしょ。とりあえずこの話は保留にします。
それより......例の情報屋と連絡が取れました。」


「本当か!?あれ、けど正体がわからないって...正体もわかんねーのにどうやって連絡出来たんだ?」

「えぇ、まぁそこは色々とツテを当たりまして.....。それよりも、実は今夜、学園で会うこととなりました。場所は旧校舎の音楽室。それから、待ち場所には一人で来ることと情報料はキャッシュで10万、それが条件だそうです。」

「そうか。うん、急だけど10万なら何とかなるね」


「待ち場所には私が行きますね。」


「いや、おれが行くよ。」


「ですが、危険ですよ!?
相手がどんな人物かもわからない。それに相手が誠実な人物だとは限らないでしょう。情報を得られずにお金だけ持ち逃げられるって可能性だってあります。」



「大丈夫だってー!
おれだってこのために武術やらを修得したんだぜ?そこいらの奴に負ける気はしないよ」


「ですが......!私はあなたが心配なんです。あなたにもしものことがあったら.........。」




目の前に居る怜愛は、
不意に
おれの頬を一撫ですると、
指の背で
頬から顎へとフェイスラインを辿った。
ビクリと肩が揺れる


「っっ」


怜愛はそれを見取ると顎を掴み上げた。
怜愛の女性のような綺麗な顔がどアップで目の前にあり、
ドギマギしてしまう。

不意を突かれたせいでか
顔面に熱が上がる。
怜愛は耳へと顔を近づけると


「ーーもし、あなたに何かあれば、私は......。約束してください。無茶はしないと。もしも危険を感じた時はすぐに私を呼ぶと。」

言いながら、耳を遊ぶように唇で耳たぶを撫でた。


「うっ、あっ.......」


「約束は?」

喋ると、唇の動きが
直に肌へ伝わり

まるで、
耳を食(は)んでいるように
錯覚してしまう

共に吐息が耳を撫で、
思わず声が上擦ってしまう



「ーーっ、わ、かったよ!
約束す、あ.......るっ!
だからっ、耳はヤメローっ!?ぃあっ.....」


「ハイ、よく出来ました!!」


そう言って、
パッと手を上げて離れた。
見れば怜愛の顔は満足気だ。

「はー、はー......、怜愛....お前、おれが耳弱いの分かっててそういうことすんなよー。もー、まぢダメ。うわー、まだ耳気持ち悪いよー.....」

「まぁ!!気持ち悪いだなんて失礼しちゃいます!」



「あのさー、お前等俺のこと忘れてっだろ?」


怜愛のブリブリ口調が出たところで、
今まで存在を忘れられてた
よるが声をかけて来た


「「あ.......」」






******




同時刻、ある教室内では
男が一人、
窓際に置かれた一式の机の椅子に腰掛け、
ヘッドフォンを付け、
そこから流れる声に耳を傾けていた。


「ーーー今夜0時に旧校舎の音楽室ね......。ふん.......?」


呟いて、持っていた缶コーヒーを一口飲むと
その手の甲に顎を乗せて考え込んだ。


「why?
.....ごく一般の女子高生が"情報屋"とやらを何故探している?
一体何の情報を追っているんだ?」


男は何かに気づいたように
フッと顔を上げ、
ヘッドフォンのスイッチを切ると、
缶コーヒーを机に置き
その時を待った。


数秒も経たないうちに、騒々しくドアが開けられ女生徒が部屋を覗いた。

「あ!!フォードくん!どこ行ってたのー?探したんだよぉ~」

「I'm sorry. 」

フォードと言われた男は謝りながら立ち上がると、ドアに向かい、部屋を後にした。




部屋には、
空になった缶コーヒーが残された。