「神咲さん!いい加減にしてよね!」
怒りを露わにして、目の前の女の子は言った。
「えと、何が......?」
何のことだかサッパリわからないおれは、首を傾げ女の子達を見つめた。
「しらばっくれるんぢゃないわよ!」
そうは言われても、見に覚えが無い。
理由も思いつきもしないのに、怒鳴られてもこちらとしては困る。
オリエンテーリングの開始直後、とりあえずトイレだけは済ませておこうということで、おれ達はトイレに来た。
みんなが用を足す間、おれはトイレ前で待っていた。
そこで突然腕を引っ張られて
あっという間に連れていかれ、
気付いたら女の子達に囲まれていた。
そして今に至るというわけだ。
おれは今、女生徒しかも多分クラスメイト、に何かが理由で囲まれているってことだ。
とりあえずわかるのは相手は相当お怒りらしい。
「えーと、何の話......? 」
「調子にのらないでよね!自分が彼に特別扱いされてるからって......」
「そうよ!」
彼って誰だ?
そもそもいつ、おれが調子にのった?
特別扱いってなんだよ?
サッパリわからない。
わからないことだらけで
脳内はハテナマークで埋め尽くされつつある。
疑問も問い返したい衝動も抑え、とりあえず女の子達の言い分を聞こうと思う。
「神咲さんにうろちょろされたら、彼だって本心は迷惑なのよ!!フォードくんの近くをウロウロしないでよっっ!!」
一気に脱力感に襲われた。
奴か.......
奴だったのか.......
原因は奴、メレディス・フォードにあったらしい。
とんだとばっちりだ。
彼女達はとんでもない勘違いをしている。
決しておれから、おれの意思で、彼の近くをうろちょろしたことはない。
彼が勝手に寄って来るんだ。
それに、言うならおれの方が迷惑してるくらいだ。
脱力感に肩を落とし、呆然と言葉も出ないといったおれの様子に、また何を勘違いしたのか女の子達は、ここぞとばかりにヒートアップし的外れな事を言って来た。
「言い返さないって事は認めるのね!!
ちょっとばかり可愛いからって良いように勘違いしてフォードくんに付き纏うなんてイタいのよ!!ストーカーみたいなことしないでよね!!」
「そうよ!!もっとフォードくんの気持ちを考えなさいよ!!」
「このストーカー!!」
真ん中のリーダー的存在の女の子が言うと、それに倣うかのように次々に女の子達は好き放題言ってくれる。
待て待て待て!!!
好き勝手言っちゃってくれてるが、
さすがにストーカー呼ばわりされたら
いい加減おれも反論するぞ!!
そう意気込み、反論しようとしたその時、ふいに女の子達目掛けて何かが飛んで来た。
「あぶなっっ......!!」
おれは言い終わる前に
咄嗟に目の前の女の子の腕を引き、庇うように抱きしめた。
「えっ!?きゃっ」
間髪いれず、飛んで来たものはおれの肩に当たり、弾けた。
衝撃は大して無いものの、当たった箇所がびしょ濡れになった。
「冷た。これ、水風船か.....」
「蜜果ちゃんっ、大丈夫!?」
女の子達がおれの腕の中に居る女の子を心配し声をかけるが、女の子は何があったのかわからず、呆然としている。
抱きしめたままなことに気づき、腕を離して女の子の顔を覗き込んだ。
「あぁ、ごめん、大丈夫か?怪我は無い?」
「え?あ、はい......」
「なら良かった。こんな可愛いのに怪我でもしたら大ごとだからね。」
「え!?」
「ゴメンね、いきなり引っ張ったりして........。他の子も大丈夫か?水、かかってない?」
「へ?あ、う、ん。大丈夫.......」
「うん」
「そっか!なら良かった!みんな女の子なんだから濡れて風邪なんかひいたら大変だもんな!あ、とりあえずさ、今オリエンテーリング中なんだし、また水風船でも飛んできたら困るしこの件はオリエンテーリング後にしないか?保留って事で!!お.....ぢゃない、わ、たしも言いたい事が山ほどあるからさ!オリエンテーリング終わったら決着......ぢゃない、話つけようよ!」
「う、ん....」
そう提案すると
意外にも女の子達は反対なく頷いてくれた。
「ぢゃあまた後で。
オリエンテーリング一位目指そうな!!そろそろ合流しないとグループのみんな心配するだろうからもう行くね!危ないから早くここ離れなよ?ぢゃ。」
言っておれはそそくさとその場を離れた。
もうみんなトイレは終わってるだろうから急いで合流しないと、心配させるし、迷惑かけてしまう。何より、怜愛が恐い。勝手に一人何も言わず居なくなったら、怜愛は烈火のごとく怒るだろう。
あいつの折檻が一番恐いのだ。
考えただけで鳥肌が立ってしまう。
寒気がする。
「あ。これ、忘れてた。うわ、意外と濡れたなー。合流前に体操服に着替えるか......」
水風船の被害箇所が意外と広範囲で、乾くには少し時間がかかりそうだ。
暖かくはなってきたとはいえ、まだ冬が終わったばかりで風が冷たい。
流石に濡れた状態では寒い。体操服に着替えるため、教室に向かった。
「へぇ、思ったより素早いな。いい反応だ」
メレディス・フォードは
手に持った水風船を地面に投げ割り一人呟いた。

