「うーん!」

深雪は大きく伸びをする。そろそろこの状況に慣れて来た今日この頃。

「このまま救助が来なくてもいいかな・・・竹本さんもいるし」

ここは山の奥にあるホテルなので、救助要請をしても、3日ほどかかってしまう。
…というか、なぜ深雪の頭の中はこんなにおめでたいのか。

「そんで、これからは2人で一緒にここで暮らさないか(キラーン)みたいな!」

なんとも想像力が豊かである。

…………プルプルプルプル……
「んっ?」

小刻みに聞こえるそのプルプル音は、まるでヘリコプターのようだと深雪は思った。

「いや、この音は本物よ!」

窓の外を覗いてみると、ここら辺で一番平らな道にヘリが止まっていた。そこから出てきた自衛隊員がこちらに向かってくる。

「大丈夫ですか!?」

ドアを開けてきたその男に、深雪は見覚えがあった。

「…あれ、深雪か?」

「もしかして、園山くん?」

そこには、自衛隊の姿に身を包んだ幼馴染みの園山光希が立っていた。確かに自衛官になったとは聞いたが、ここに救助に来るとは思わなかった。そして深雪は安心したのか、慣れたはずの遭難生活(…といっても3日だけだが。)に今頃不安を覚え、泣き出してしまった。

「園山君…怖かったよ~!」

「ハイハイ、落ち着いて」

飛び込んで行った深雪を優しく受け止めた園山は、あくまでなだめるように言った。

「僕が来たから、泣かないで、ね?」

「…うん・・・ヒック」

絶えずしゃくりあげる深雪は園山から宿泊者たちの避難場所を聞かれ、答えた。

「私その時厨房にいたから、どこに避難しているかわからないの。いそうな場所はあるけど…」

その日お客様の避難担当だったのはこの人で合ってたっけと竹本を呼び、避難先を確認した。

「お客様の避難場所ってどこでしたっけ?」

「あぁ、〇〇の〇ー〇ー〇〇だよ」

住所まで言えるほどの徹底ぶりを深雪はさすがだと思った。

「ありがとうございます、えっと…何さんでしたっけ?」

「竹本だ」

「あぁ、すみません。あまり人の名前は覚えられないもので」

深雪は気づいたら竹本のことをじっと見つめていた。

「…ん?俺の顔になんかついてるか?」

「えっ、あ、いえいえ何もないです、本当に。いつも通りです」

こうして避難も無事に終わり、深雪達もヘリに乗り込もうとした。

「ねぇ、もしかすると、すごく高いところまで上がったりする?」

実は、深雪は高所恐怖症なのだ。小さい頃起こった事故のせいで、今も高い場所に行けなくなっている。

「上がるんじゃないかな、ヘリだから」

こういう時になると、なぜか松村は残酷に答える。

「松村さん、余計不安になるじゃないですか!あと、園山君、乱暴な運転だけはやめてよね!?」

「もちろん」

「震えんなよ、絶対。隣にいる俺が困る」

などと言ってる梅沢も実は、深雪と同じである。いざ乗り込んだとき、先ほどの深雪と同じような反応を見せたからだ。
そんな不安要素の塊をのせたヘリは、近くの避難所へと、飛んでいった。