「俺は、ちゃんとお前も母さんのことも愛していたよ。」 「じゃあ何で?」 「……お前の母さんを愛すると同時に、俺は、……もう一人の女性を愛してしまった。」 父の話は、可能性としては何回も考えた。 “不倫” “駆け落ち” 。 でも、目の前に事実として突きつけられたとき。 ただ、悔しさと虚しさ。 悲しさよりも、大きかった。 父への憎しみだってあった。 胸にぽっかり空いた消失間とは、まさにこれだろう。