『…!!』
健汰が、泣いている!?
ナゼ?どうして?
若干のパニック状態に陥るあたしをよそに、健汰の流す大きな涙は、ポタポタと地面に落ちて消える。
『健汰っ、健汰っ!』
あたしは必死に健汰の名前を呼ぶけれど、人間には「ニャア」という鳴き声にしか聞こえない。
なんてもどかしいんだろう。
「…ぁ……ごめんね。ミユ…」
あたしの鳴き声に気づいた健汰は、ゴシゴシと涙を拭う。
…少し、思考が落ち着く。
涙を全て拭うと、健汰はどこか遠い所をボーッと見つめて、ぽつりと呟いた。
「ちょっとね、思い出しちゃったんだ…。」
…あの事?
あの事って、何?
…もしかして、そのたくさんの傷と、何か関係があるの?
「あ、もうこんな時間だね…」
そう言われて上を見上げると、そこには鮮やかなオレンジ色に染まった空があった。
「ミユ、僕帰るね」
健汰はあたしの頭にポンッと手を置いて、いつもの道に走り去ってしまった。
最後に健汰があたしに向けた笑顔は、スゴく無理しているように見えた。
「…ハッ…ハァ、ハァ」
「まだ、まだだ。我慢しろ」
「まだ、してはいけないの?」
「あぁ」
「…わかった。」
「そうだ、やけに聞き分けがいいな」
「当たり前じゃないか。あの時だって、あなたが言った通りにやって、成功したんだから」
「そうか」
「…今回もよろしくね、トウサン」