あの夢を見てから、数日が経った。
健汰は来ていない。
きっと、他の事が忙しくてあたしに会っている暇もないのだろう。
実は、あたしは健汰の家がどこに在るかはわかる。
以前、健汰が『ミユが寂しくなったらいつでも会いに来れるように』と、地面に木の枝で地図を描いて教えてくれたのだ。
でも、あたしは行かないことにしている。
…大抵の人間は、あたしのことが嫌いだから。
人間は、あたしを見るだけで嫌な顔をする。
「うわ、黒猫だ…不吉だなぁ」
「こっち来んな!この野良猫が!」
と、罵る人間もそう少なくはない。
だから、あたしが健汰の家を訪れたところで、健汰には迷惑をかけてしまうかもしれないのだ。
でも、やっぱり、孤独であることは辛い…。
あたしが三毛猫とか、真っ白な猫で、もっと違う境遇に生まれていたなら…なんて、あたしの勝手なワガママだ。あたしは今おかれているこの環境でしか、生きてはいけないのだろう。
きっと、それがあたしの運命なのだから。
…―時々、空き地の前のせまい道路を車が横切る。
それ以外には、セミの鳴き声、どこかの家の風鈴の小さな音色。
空は晴れていて、大きな入道雲も見える。
…とても、静かだ。
この辺は住宅ばかりあるせいか、街中のような騒音はほとんど無い。
それが、あたしがこの空き地を気に入っている1つの理由でもあるのだが、今日ばかりはそれが苦痛でしかない。
「ニャー」
試しに鳴いてみる。
誰でもいいから返事がほしくて。
あたしは独りじゃないという、証明がほしくて。
…返事なんて、あるはずないのに。
「にゃあー」
…ぇ。
「あは。ミユ、久しぶり」
振り向くと、そこには愛しいあの笑顔。
『健汰!』
嬉しすぎて、久しぶりにあたしの心は苦しくなった。