初めて健汰と会ったのは、半年くらい前のことだった。

その時も、場所はこの空き地だった。


…あの日は特に寒かった。


毎年、その時期は段々と暖かくなる筈なのに、あの日は大雪が降ったのだ。
寒さと空腹で弱っていたあたしは、北風しのぎに塀の陰にうずくまっていた。

それでも雪はあたしに降り積もり、夜が近づくとその雪を払う体力もなくなりかけていた。


“もう…駄目なのかな”


そんな考えが、頭を過った、その時だった。

サクサクという、雪を踏む音が、あたしに近づいて来るのを感じたのだ。


(…!)


逃げたい、けど、逃げられない。

もう、体に力が入らないのだ。



(どうしよう…!)


そう考えている間にも、どんどん足音は迫っていた。


(助けて、怖い…誰か!)


そして、

足音がすぐそこで止まった。


もう、終わりだ。
そう思った。




「…大変だ、すぐに暖めないと!」

(…?)


頭上から声が響いたその直後、あたしは、フワフワした何かに包まれていた。


(……暖かい)


驚いて虚ろな目で見上げる。
どうやら、薄手のパーカーを着たこの少年が、あたしを抱き抱えているらしかった。


「…あったかい?こんなのしかないから、寒いかな」


どうやら、この暖かい物は少年の上着らしい。

少年が、自分の上着であたしを包み、さらにそれを抱えていたのだ。


『…ダメ。あなた、風邪を引いちゃうわよ』


こんな雪の中、薄手のパーカー一枚では寒すぎる。
現に、少年は小刻みに震えていた。


「あは、心配してくれてるのかい?…僕なら大丈夫だよ。安心しておやすみ?」


その時見せた少年の笑顔は、ふんわりとした、とても柔らかな笑みだった。


『でも…』

「大丈夫、僕が守ってあげるから」



“守ってあげるから”



そんなこと、生まれて初めて言われた。
あたしはずっと、独りだったから。

直後、安心しきったあたしは夢の世界へ身を委ねた。