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冬が近づいてきたのか、近頃は朝晩が随分冷え込むようになった。
もう健汰が来なくなってから3ヶ月以上経っている。
あの頭の痛みは、あの日以来感じていなかった。
『寒いなぁ…』
そう一人言を口にして、あの冬の日、健汰からもらった上着の上に丸まる。
そして、消えそうなくらい細い三日月を見つめて、ぼんやりと考えた。
『健汰、今ごろ何してるのかな…?』
きっと、もう夜遅いから、布団の中に入っちゃっただろうな。
それとも、夜更かししちゃって怒られてるかな?
健汰はゲームも大好きだから。
あ、でも、もしかしたら…。
“ああかもしれない”
“もしかしたらこうかもしれない”
――――ポタッ。
『…?……………ぁ』
地面に吸い込まれるようにして落ちたそれは、あたしの目から零れたであろう、涙だった。
その水滴を『涙』だと認識すると同時に、今まで我慢していた感情が一気に溢れ出した。
『…なんで、何で来なくなっちゃったのぉ?…健汰…』
もう嫌なの。
想像でしか、あなたと会えないなんて。
ツラいよ。
…寂しいよ。
最初から健汰に会ってなかったと思えばいい、忘れてしまえばいい、なんて考えたこともあった。
けれど、あたしにとって健汰と過ごしてきた日々は命と同じくらい…いや、それ以上に大切なもの。
忘れるなんて、不可能だった。
…限界だ。
あたしは、もう充分…我慢したよね?
あたしは立ち上がり、涙を振り払うと、地面を強く踏みしめた。
深呼吸をし、夜空を見据える。
『…』
ごめん。
健汰はきっと…迷惑がるだろう。
でもお願いだから、今回だけ許して…。
『…今から、行くよ。あなたのところへ』
…その時だ。
暗闇の中に、誰かが近づいてくる気配を感じたのは。


