―都内の、ある一角。
そこは沢山の住宅が敷き詰められたなか、ぽっかりと空いた唯一の空間。
いわゆる、空き地というやつだ。
…某日、そこには、とある男女がいた。
男は、心に『闇』を抱えていた。
男は苦しんだ。
ところが女はわからなかった。
彼が何故そんなに苦しんでいるのか。
そんな女に、男はこう言い放った。
“◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯”
さぁ…始めようか。
世にも可笑しな恋語りを。
*゚.゚・*.゚・゚.・*゚・*・.゚
―…時は、8月10日夕刻。
場所は、住宅地のなかにポツリとある空き地。
空は一面鮮やかな茜色。
すでに一番星は明るく瞬いていた。
(…まだかなぁ…。もうそろそろ来てもいい時間なんだけど。
…もしかして、今日は来ないのかな?)
茹だるような暑さにボーッとしながらも、あたしは今日も待っていた。
―タッタッタッタ
すでに暗闇になりつつある道からの、聞き覚えのある足音。
(もしかして…!)
そう耳で直感し、顔を上げると、
「ご、めんね、待った?…ミユ」
そこには小学5年生にしては背丈の低い少年が、息を切らして立っていた。
『健汰!ううん、全然待ってないよ!』
嘘だけどね。ホントはずっと待ってたんだよ。
「あは。遅くなってごめんね、ミユ」
そう言って柔かに微笑むと、少年・健汰はあたしに歩み寄り、ポケットから何かを取り出した。
「はい、ミユ。おやつだよ。僕のやつの残りだけど…」
そう言って差し出したそれは、少し小さめのビスケットだった。
『ありがとう!』
言葉を発せないかわりに、沢山甘えることで一生懸命喜びと感謝を表現する。
「へへ…可愛いなぁ、ミユ」
健汰は、あたしの頭に優しく手をのせ、撫でた。
それがとても嬉しい。健汰の手は、柔らかくて心地よい。ずっとこうしていたい…。
心が、ほわりと暖まっていく。
…と、ふと健汰は空を見上げた。
「ぁ、もう真っ暗だね。僕もう帰らなくちゃ!バイバイ、ミユ!」
『ぁ…』
健汰はそう言って、手を降りながら走り去っていった。
あたしは貰ったおやつは口にせず、健汰が走り去った道をずっと見つめていた。