電車で遭遇した場合。



────…


俺が乗ってから暫くすると、彼女の隣に座っていた中年の男が降りた。


各駅停車のため、車内はあまり混んでいない。


俺は辺りを軽く見回したが、座りそうな人が誰もいないので座ることにした。


ゆっくりと腰をかける。

車内に取り付けられている扇風機が、彼女の香りを俺のもとへ届けた。


清潔感を漂わせる、ほのかに甘い香り。


俺の顔は恐らく耳まで真っ赤だろう。
知り合いが同じ電車でないことにありがたく思った。


――しかし、彼女はそんな俺にはお構いなしで、参考書とにらめっこ。


本当に真面目だな。

彼女の開いている参考書の内容的に、俺と同い年だと思われる。


…って、俺ガン見してないからな。
横目でチラーっと。
はい、チラーっと。



…って変態だ、俺。
何してるんだろう。


向かい側のおばさんに怪訝そうな顔をされてしまった。


俺は苦笑いを返す。




―――あ、なんか落ちた。
付箋?だよな?
落としたというのに気付いてない彼女。