「やっぱり、こう意外性というか、パンチが効いてて目をひく感じになんないかな」
「差し色あるじゃん」
「うーん……」
「形ごと変えるとか」
何の気なしに投げた言葉に、世の目が輝いた。
「それだ!!」
火がついた縄の上を走る勢いで世がさかさかと鉛筆を動かしはじめる。
ほんとに思いつきなんですけどね。
少しだけ解ってきたこともある。世はごく小さなことも全部ひろって、自分のものにする。
たくさんの事象が、世を動かす燃料になっているみたい。
なんでもかんでも……それこそ猫の毛並みが綺麗だったとか、標識のコントラストがいいとか、アスファルトとコンクリートで歩き心地が違うとか_____
そういう、『なんでもないこと』に気づいたとき、世はちょっと考える顔をするんだ。
どれもが、世という人間をを創っていくために大事なことなんだろう。
『なんでもないこと』がこんな風に服を作ったりしていくのを見るのが、今は何より楽しい。
ちょっと前の私が嘘みたい。
「ねえ、世____」
「ユイロっっっ!!!!」
突然のこと。
私の声にとてつもなく大きな声が被さった。
「……なに?今のデカイ声」
急な音圧で遠くなった耳に訝しげな世の声が入ってくる。
作業を邪魔されて不快なのかもしれない。
顔をしかめる世を初めて見た。
「、わかんない」
「……ていうか今の、海堂先輩の声じゃなかった?」
えっ。
ふりあおぐと、声のした廊下の方にばらばらと人が集まっていっている。
私と世も席をたち、ギャラリーをくぐり抜けて廊下に出た。
「待てよっ!おい!!」
もう遥か遠くを叫びながら走っていく海堂先輩の後ろ姿が見えた……。