遡ること数時間。

私と世は小休憩中の教室で向かい合って座っていた。

もう、本当に不思議というか、なんというか意識ってすごいっていうか。
人と頭ひとつぶんの距離で話すことも、他人の席に断りなく座る無遠慮なことも、なんの抵抗もなくできるようになった。

それに、相手の目をしっかり見つめるようにすると、以前の私の感覚を思い出す。
そうすることが癖だったからかもしれない。

隼香さんの目に射抜かれてから、私にとって目を見ることは特別な意味をもつようになったんだ。

ちら、と目を動かすとスケッチブック片手に頬杖をつく世が重く言った。

「なんか、違う」

「なにが?」

私もファッションショーを動画で見たり、自分なりに勉強している。
が、そのどれもが今まで着てきた衣装とはかけ離れていてよくわからないまま。

こう、ずっと先の流行の原型っていう感じがする。
私の見る目がないからなのか、"原型感"が濃すぎておしゃれに思えない。

多くが、これどこで着るの?と言いたくなるまったく実用性がなさそうな服。
生地が薄くて隠すべきものが見えていたり、理解不能。

思えば、モデル活動をしていた時も頭にクエスチョンマークを浮かべながらひたすら長身外国人モデルのウォーキングを見ていただけのような気がする。

そう、私ってそういう子だった。
興味のないものは一切がどうでもいい。
理解できないものには触れない。

自力で対処できない状況に陥ったのも、理解が追いつかなくてパニックを起こし、冷静さを失ってしまったというのがある。

情けないな。

「もっと琳ちゃんらしい若さがほしい」
「なにそれ」

世は何度も何度も悩んでいた。

一度は納得がいっても、そのうち気になる点が出てきて無性に直したくなるらしい。

それでもけっこうデザインも固まってきていたし、私としても文句ないくらいキレイだったので世が『違う』と言い出したのは意外だった。

もういいんじゃない、と思うけど。

柔らかく緑に色の乗せられたデザイン画を真剣に眺める姿から、きっと世にとっていい加減にしたくない、しちゃいけないことなんだと解る。

私にはまだ数センチの布の位置の差とか、同系色の色の雰囲気の違いとかはあまりよくわからない。
けど、それも少しずつ理解していきたいと思ってる。
というかすでに決めた。

過去の私から成長するためにも。
世のこと、知るためにも。