* *
自販機の前にしゃがみこむ二人組を、ジャージの教師が一瞥して通りすぎた。
それではっとして、部室にふたり並んで戻る。
途中の廊下で、世はこんなことを言った。
「琳ちゃんさ、男の前でしゃがんじゃだめだよ」
いちごみるく、もう空だったけど世の前で捨てるのは気がひけて持ったまま。
「えー、なんでよ」
聞くと、世は『あー』とか『そのー』とか釈然としない。
はやく言え…と睨むと、彼はきゅっと口を結んでからひらいた。
「さっきはつっこまなかったけど、見えてました」
「…はっ!?」
見えてた。ミエテタ。
あれよね、あれだよね?
やめてくれ。
「へんたい」
「言うと思いました…」
今日のどんなんだっけ……
や、問題はそこじゃないし!
ていうか、言われなかったら私気づかなかったのに。
世は顔ごとよそを向いて、
けど……、とぼそっとこぼす。
「他のやつにも見えるってことじゃねーか……」
世のちいさな独りごとは、私の耳をふるわせるみたいに入ってきた。