「それで小田桐君、"夏"のほう、パンツにするの?」

剥き出しになった腕と足が空気に晒されて落ち着かない。
早く進めたくて声をかけると、彼ははっとして笑顔を取り繕った。

「うん、そう。思いきり短くして、トップスを目立たせる……そうすると、布が多くてもバランスが良くなると思わない?すっきりした感じでさ」

しばしイメージ。

いろんなグリーン系統の色、たまに反対色。
たぶん、夏の自然___色鮮やかさとか爽やかさとかを表現して……
トップスのシルエットはAラインかな?

小田桐君のつくる服はやり過ぎない、けど目を引く存在感があるから、

きっと、センスのいい装飾になるんだろうな。


それを肌に触れる私。
今まで押し潰してきた自分なんかじゃない、まんまの私で着こなして。

そして、見てほしい。

「___いいね。すごくいいと思う。」


「じゃあ取り掛かりますか!」

嬉しそうにゆるく弧を描く目と唇。
でもすぐに変わってしまう表情。

そんなとき、もっと、って思う。
もっと見ていたいな。
なんかかわいいから。

「全体的にはグリーンの配色が多めだけど、ボトムはぜんぜん違う色にして___」


とんとん、テンポよくデザインが決まっていく。
目の前でスケッチブックに走る鉛筆の先から、迷いなく力強いラインが生まれる。

火がつくとそこから早いんだね。

ときどき私も口を出す。
小田桐君は唸って、採り入れたりはねつけたり。

ずっと口角が上がっていて、でも瞳は真剣そのもので。
何かに夢中な子どもみたいだ。

彼は生み出すことを心から楽しんでいる。

「楽しそうだね」

小田桐君はきょとんとして顔を上げた。

「そうだね……でもまだ、全然足りないんだ」

そう言った彼が目を伏せたのに、私は目を逸らせない。

憂い?
悲しさ?
寂しさ?
不安?
__羨望?
__怒り…?

そのどれもを含んでいて、どれも微妙に外しているような。

なにかを掻き立てる表情を、小田桐君が私にみせた。

「私__」

服をつくるのに、私はあんまり力になれないかもしれないけど。

あなたが求めるものがあるなら、全力で協力する。
したい。

例えばコンテストで優勝することを望むなら…
これから素敵につくられるであろう服たちを、
最高に魅せてやる。

私の力で。

後ろ向きなもの全部、吹き払っちゃうくらい。


下を向いて、殻に閉じ籠った私の手を引いてくれたから。

好きって言ってくれたの、私きっと嬉しかったから。

それに、

『まだ足りない』

って、似てる気がするから____


彼の表情が、言葉が、私をうるさく急き立ててる。

「がんばるからね。最高に"完成"させるから」

「……頼もしいね」

小田桐君の瞳に光が宿ったのを見て、確信する。

小田桐君、あなたはそのうち、オナカがすく。
どうしようもないくらいのクウフクで、苦しくなるかもしれない。

『足りない』と思う限り。

"もっと"と求めるかぎり。