私の熱い眼差しを受けてか、小田桐君のほうもどこか熱を灯した目で見つめていた。
と、急にその手が伸びてきて。
ちょっといい気分に浸っていた私としては、この状況は予想外すぎて声も出せなかった。
わずかに身を引くともう片腕も伸びてきて首の後ろを捕らえた。
「、ちょ」
「逃げないで」
肌のにおいがする。
たぶんこれが、男の人の香り…いやいや、そうじゃないだろ。
どうした琳。
なんで?
逃げたいはずなのに、身体が動こうとしない。
まるで、小田桐君を待つように。
会ったばっかりなのに?
いやいや、おかしい、ぜったい、ないから_______!
カチン。
「はい。やっぱりいいな、これ」
……はい?
無意識に目を瞑っていたらしく、自力で視界を開く。
鎖骨のあたりがひやっと冷たい。
確認しようとする前にまた、ちょっと硬そうなごつごつした両手が伸びてきて、
今度は髪をすくいあげてパサッと落とす。
一瞬、首筋に彼の手が掠めてビクッとしてしまった。
「な、何、何」
「……これ、覚えてる?」
コロンと、首もとで小さな何かが転がる感触。
指でつまんで持ち上げる。
長めのシルバーチェーンに繋がれた、
ガラスの靴_____をかたどった銀色のチャーム。
トゥーの部分に嵌まったブルーの…スワロフスキー、かな、これは。
夕陽を受けてキラキラ輝く。
「きれい……これ、あのときの」
「そ。シンデレラのワンピース着たときの。珠玉の出来だろ?自信作です」
不思議な気分にさせてくれる、あの青いワンピース。
あれと共に身につけたものだ。
あのときは鏡越しだったからよく見えなかったけど、間近で見ると本当に繊細で、小さな人形が履いて踊りそうなくらい、綺麗だ。
「これも……小田桐君がつくったんだ」
「気に入らない?」
「そんなわけない」
小田桐君は私の指先から小さなガラスの靴をつまみ上げて転がす。
「このガラスの靴、琳ちゃんにあげる」
「いいの!?」
これ、売ったら売れるんじゃないの___
「もともとそのつもりで作ったし。あの服に合わせてね。それに__琳ちゃんすごく嬉しそうなカオしてるし!」
そこまで言うと小田桐君はくしゃっと笑った。
「そうかな……ありがとう」
なんで嬉しそうなんだろ。
なんで私が笑うと、笑うんだろ。
「じゃあ契約証明ってことで、遠慮なく貰っといてあげるわ」
なんで私は、可愛くないこと言っちゃうんだろ。
素直に「うれしい」とかでいいものを。
だけど小田桐君は、私の意表を突いてくる。
「琳ちゃん、今すっげえ可愛い。顔めっちゃ緩んでるよ」
「…ゆ、緩んでないし!」
私の知らないこと、たくさん教えてくれる。
くいっと目だけで見上げると、小田桐君はちょっとだけ頬を赤くして微笑んでいたりする。
そんな、ことするから。
へんな気持ちにさせる。
胸の奥の奥があつくなって、心地よくて、くすぐったくて……
顔が赤いのが夕陽のせいじゃなければいいのに。
とか
何度も聞いた「かわいい」が、カメラマンさんが言うようなのじゃなくて__特別な意味をもった「可愛い」だったらいいのに。
なんて。
恥ずかしくて、絶対だれにも教えられないような空想をさせたりする。
いきなり、好きとか…言うから。
どうしていいかわかんない。
しだいに頬の緩みまくった、かっこいいその顔を睨む。
あんたのせいなんだからね。
こんな気持ち教えるから、
私が私じゃないみたいじゃん。
そのとき、夕陽がいっそう赤みを増した。
たぶん、そのとき。



