「んっ?」
黒の水性ペンで線取りされた女性がひとり振り向く形で立っていて、体はあり得ないほど細く長く、
身につけたドレスはベールが流れてやわらかい印象_____、いやいや。ちょっと。
「なんで今の私がこうなるの」
どうみても夕焼けと普段着着た私しか見てなかったじゃない。
「イメージだよ。服にするんだから…この風景まんま服にはできないでしょ?」
イメージ…
いったい、小田桐くんの目に世界はどう映っているんだろう。
私が見る、まんまの世界とは違うのか。
「色は、やっぱり薄い黄色をベースに、オレンジとか青とかを重ねて斑模様にするでしょ。大事なのはこのベール。全体を覆う感じで…」
肩が触れそうなほどの隣から、楽しそうな声が走ってくる。
彼が二の腕を手すりに乗せているからか、いつも見上げる顔が今は真横にある。
距離が近い。
声が近い。
笑顔もちかい。
わずかに笑みを滲ませて話す小田桐くんの横顔に目が吸い付く。
彼は夕色を見つめている。
たぶん、その見える世界は夕色で、目を通して頭に浮かぶのは
今私が見ているこの風景とはぜんぜん違う形をしている。
「この夕焼け、まだ色が淡くてベールがかったみたいに見えるよね?」
なんて言うから、ますますわからなくなってしまった。
「まあ、わからなくもないけど」
うそだ。私には、どうしてもベールには見えない。
私の言葉に、彼は一瞬こちらを向いて笑った。
考える顔をしていたから、嘘だとばれたに違いない。
「こんなのも、服にできるんだね。……なんか、絵を描くみたい」
「絵かー。たしかに、感覚は同じかもね」
見る人が10人いれば、10通りの見え方があるのかもしれない。
今まで、私の見え方が世の全てだって思っていたけど。
……見てみたい。
この人の世界、のぞいてみたい。



