思いついたまま勢いよく言い放つと、二人同時に
は?
と弾でも喰らったような顔をした。
ともあれ、小田桐君に見つめられながらカットはさくさくと進んでいく。
腰まである黒髪がおへそまで減り、肋まで減り……
バサバサと落ちていく束が真っ黒なカーペットへと姿を変えていく。
その様を伏し目で眺めながら、私はある種の快感を覚えていた。
大事にしていたはずであり、重くのし掛かっていたものが、すべて流れ落ちていく。そんなイメージ。
ついには肩甲骨を隠すくらいの長さまで後退した。
あぁ、かるい。
バランスがとりにくくて、頭がカクッと傾いてしまいそう。
顎から下にレイヤーを入れると顔周りが段違いに内巻きのドレープをつくった。
前髪にはないさんの指先がかかって、目をとじる。
わずかに伝わってくる振動。
弱々しくも、
がんばれ、
自分を見せてやれ、
少しずつ私を奮い立たせる。
そして瞼をぐっと持ち上げると、そこには長い睫毛を着込んだ大きな2つの目が並んでこちらを見ていた。
自然と笑顔になると、目の前の私も同じ笑顔を返す。
「さて、じゃピンクブラウンいきますかー」
数時間後。
おお。
おおお。
「すごーい……色かわいー!」
うれしくて、何度も頭の角度を変えて確認する。
黒かった私の髪は、根元から毛先までピンクがかったブラウンに染まっていた。
「やばい、めっちゃ似合う」
はないさんも納得の仕上がりみたいだ。「別人だ」
ばっ、と髪をひるがえして小田桐君を向く。
私の顔には押さえきれない満面の笑みが浮かんでいるだろう。
「予想以上……すげーかわいい」
わずかに頬を赤くして嬉しそうな彼に、
どくっ。
なにかがまた、音をたてた。
きゅっ、じゃなかった、今度は。



