SUCCESS?

* *

「じゃあ"はない"さん、こんな感じで」

すっかり元の調子に戻った小田桐君が、美容師の女の人にポケットインしていた紙を手渡す。
「うん、はいはーい」
明るいボブをかきあげて、美容師さんが答えた。

店内にも淡く緋が射し込んで、硬質な床を彩っている。

先ほどとは売って変わって街の中心地。
お洒落でモード系の店内、雑誌でもたびたび見かける人気美容室に来ていた。

大きな鏡の前に座ってはいるものの、そこに映る今の自分はどうみても店に不似合いで落ち着かない。

はない、と呼ばれた美容師さんはじぃっと___おそらく、希望するヘアスタイルのイメージ___を見つめて、私の髪を確かめるように触れる。

慣れた手つきに「プロだ」などと変に頼もしさを感じて鏡越しに凝視する。

なんでいきなり来て、しかもこんな有名店にすぐ入れるのか聞いてみると、

「今日、もう閉店だからねー」
「世が急に連絡してくるから焦った!前からの約束だったからまぁいいけど…てことで今回はあたしのカット練習って体でいかせてもらうね」

とのことだった。

たしかにそれなら、予約なしでもカットしてもらえる……のか?

やけに親しげだと思ったら、

「ほんと、伊澄兄さんてばいい奥さんもらったねー」

はないさんは隼香さんのお嫁さんらしかった。

あの人、結婚なんてするんだ……!

隼香さんの薬指に指輪。
あああ似合わない。なんか"旦那さん"な隼香さんを想像できない。

「そうよー、おかげで隼香はないなんて息抜けた名前になっちった」

快活にはないさんが笑う。

明るい人だなあ。
いや、暗くちゃ接客業つとまんないか。
隼香さんの好みはこういう人だったんだ。

あの天才気質(変人?)についていけるなんて並大抵の女じゃないよな……

「でも兄さん、はないさんの誕生日と結婚記念日だけはちゃんと覚えてるじゃん」

「まあね。あの伊澄がだよ?あたし、愛されてる~」
「自分で言っちゃうか」

いまだ彼女を見つめたままの私に気づいて、鏡越しにはないさんが笑い掛けてくれる。

「よし、カットいきますか!」

「おねがいします……!」

「任しといて。100倍可愛くしてあげる」

視界を遮る前髪の下から見たはないさんは、自信たっぷりに、そして楽しそうに笑った。