黒を好み、細身で長身。
私がモデルとして顔を合わせていたころは前髪をピンでまとめあげて鋭い目をあらわにしていた____

隼香 伊澄。

苗字も名前も女性の名前みたいだと思ったのを覚えている。

GIRLSの専属モデルをやっていた頃、フリーのスタイリストをしていた人だ。

あるときぱっと現れて、私が引退したあとは一切の連絡もとっていなかった。

だいぶ雰囲気が変わって大人っぽくなったせいで気づかなかったけど、あの鋭い目に睨まれたことはずっと忘れられないだろう。

オーディション最終選考、カメラテストに入ろうとしていた私に、

『何でオマエはここにいるんだ?』

と刺すように言い放ってきた若い男。

ともかく、初対面のときの印象がキョウレツだった。

あぁそうだ、それでいくとユイロ先輩は2番目になるかなぁなんて考える。

「じゃあなんだ、琳はオマエの彼女かよ?またいい趣味で」

「それどういう意味よ」

「ちがう、返事もらえてないからまだ彼女じゃない」

え。まだ、って?

「おー、何つって告った?好き好き連呼する前に、耳元でなんか言ってたの見てたぞ。オマエがちゃんと言わねえはずねえもんな」

隼香さんが中学生男子のように目を輝かせる。

ほんとに全部見てたんだなー……

小田桐君はにやっと人の悪い笑みを浮かべた。

「ないしょに決まってるじゃん。兄さんに聞かせたりするもんか」

ね、と意味ありげな視線を上から寄越され、さっきのアレを思い返してみる。
たぶん最初から小田桐君は、隼香さんが見ていたのに気づいていて......

耳元で囁いてきたのは告白を聞かれないようにするためだったのか。

ということはアレが本命の言葉。

けれど、大事な話を聞かれても気にする素振りも見せない。
よほどこの人に信頼があるのだろう。

「つまんね。つーかセツ、やっぱそのしゃべり方キモチワリィ。ふつーにしてろよ」

「......いたって普通。ていうかオレ、兄さんがスタイリストしてたとか初耳なんだけど」

「そりゃ言ってねえし」

今度は隼香さんが意地悪く笑った。その笑い方がさっきの小田桐君とそっくりだった。
「聞けよ琳、コイツ中坊んとき____」
「うわ言うな!バラすな!黙ってろ!」
「ほれ出た、ガラの悪__」「黙...っ」

私と話すときと、隼香さんと話すときの顔は違って見えた。
なんだか本当の兄弟みたいに思えてきて笑っていると、唐突に腕を引っ張られる。

「んで?さすがに素材がコレじゃだめだろ。どうにかする気なんだろな?」

隼香さんに間近で凝視されてちぢこまる。
この目にはどうしたって勝てない。

「もちろん。いや、だめ言うな。髪型は元スタイリストさんのご意見を参考にね」

「まぁいいぜ。"ベストを見つける"ってやつだ。見ててもいいぞセツ」

「おー、今回こそ」

何の話。

っていうか、え?髪型?

「ちょっと、何する気なの」