「あ、あのね…実は…」


もじもじしながら落ち着かない様子で話しかけてきたのは菜槻だった。


「なんだよ?」


俺は少しイライラしていた。
悠里に心の奥底から殺意が芽生えてきそうな勢いだった。


「誠くんの事が好きです!付き合ってください!」


「ふーん…って、え?」


い、今なんと?


「誠くんのことがずっと好きだったの。付き合って欲しいです。」


菜槻は俺の目をじっと見つめてきた。

なぜかわからないが急に悠里のことが頭の中に浮かんできた。
頭の中が悠里でいっぱいになって心が苦しくなってきた。

なんだかこの告白に「はい」は言ってはいけないような感じだった。

まぁ…今までのも振ってきたんだが。


「ごめん。俺は今誰かと付き合うとかそんなこと考えてないから。」


「じゃあ今からでも…私のことを…」


「ごめん…気持ちだけ受け取っておくよ。」


そう言うと菜槻は急に泣き出した。

俺は訳も分からずその光景を見ていた。
俺が振って泣くやつは初めてだったから。

急に菜槻が抱きついてきた。


「お願い…!私の事嫌いにならないで…!」


「別に嫌いにはならないけど…。」


そのとき何かの気配を感じ辺りを見回すとドアの隙間から悠里が覗いていた。
悠里は急いで走っていってしまった。

俺は急いで追いかけることにした。
変な勘違いしているかもしれないから。


「ごめん、俺もう行くわ。」


俺はそういって菜槻から離れた。

それでも菜槻は腕を掴んできた。


「なんで?どこに行くの?」


泣きじゃくった顔を隠しながら菜槻はそう問いかけてきた。


「悠里のところへ行くから。」


俺は菜槻を振りほどいて走って悠里を追いかけた。


「なんで…あんな子のどこがいいのよ…。」


なにか菜槻が言っていたようだったが急いでいる俺には聞こえなかった。