冬馬はデッサンを見るために、立てかけたイーゼルの表に回り込むと「ああ〜…」と言った。

「ああ〜…とか言うなよ…分かってる…絵の才能がない事は、自分が一番…」

椿は右手でひたいを押さえると、イスに腰かけた。

「…で、どうしたらいいと思う?」

「そうですね…では、全部消してみましょうか?」

「はぁ?!マジでかっ?!」

椿は目をひんむいて、隣でデッサンをのぞき込んでいる冬馬をにらみつけた。

「はい…中途半端に線が入っていると、邪魔なので…」

「き、きさま…六割方、描けたデッサンを前にして、消せって言うのか?!」

「ええ…いやなら、僕はこれで失礼します…あとは、ご自分でどうぞ…」

お役ごめんとばかりに、冬馬はニッコリと微笑むと椿に背を向けた。

「ちょっと待て!まぁ、落ち着け冬馬…消す…消しゃあいいんだろ?消しゃあ!」

と言って椿は、ものすごい勢いでデッサンを消しにかかった。

冬馬はそれを満足そうに見ると、近くにイスを持ってきて腰を下ろした。