目を開けると、いつもの場所にいた。
 そこは、自分の手先さえ見えないほどの暗い空間である。
 琴音はいつものように歩いていく。
 夢の中だからか、闇の中でも壁や障害物にぶつかるなんてことはなく、意外にもすらすらと歩ける。
 しばらくすると、やはりいつものように小さな声が聞こえてきた。

「お姉ちゃん、ここだよ。わたし、ここにいるよ」

 声は聞こえるが、辺りは全く見えない。
 耳に入ってくる声だけを頼りに向かっていくと、キィキィ…と金属の擦れる音が聞こえてきた。
 あれは、ブランコの音だろうか。
 少し懐かしい、聞きなれた金属の音だが、どことなく寂しさも感じられた。
 あの娘はブランコが一番好きと言っていたので、今回もブランコを漕いでいるのだろう。

「ユウちゃん?」

 そっと、伺うように問いかける。すると、小さく返事が聴こえてくる。

「お姉ちゃん、こっち。ユウはこっちだよ」

 辺りは暗くて見えないが、ブランコの音が聞こえてきたので場所が把握しやすくなる。

 目をとじて、探るように意識を広げた。
 肌がぴりぴりと痺れる感覚の後、琴音は目を見開くと、今までの暗闇から、がらりと景色が変わっていた。
 とはいえ、やはり空は暗いまま。太陽も月もないが、一本の頼りない電灯だけが、辺りを照らしていた。
 周囲に視線をさ迷わせる。
 滑り台に鉄棒、砂場とその近くには手洗い場。ジャングルジムや動物の形の1人用のシーソーもある。
そして、さきほどから音を鳴らしているブランコが見えてきた。

「ユウちゃん」

 名前を呼ぶと、ブランコに乗っていた少女が顔を上げる。

「お姉ちゃん!また来てくれたんだ!」

 嬉しそうに笑う少女を見て、琴音も微笑んだ。

「こんばんは、ユウちゃん」

「うん!」

 少女の名前は、ユウ。
 栗色の髪を可愛らしいヘアゴムで2つにまとめている。年齢は8歳ぐらいだろうか。
 この夢の中に現れる、たった一人の登場人物だ。 
 あどけなさを残した無邪気な表情が可愛らしい。
 ブランコから降りてきて、琴音の右手を急かすように引っ張てくる。

「お姉ちゃん、今日は何して遊ぶ?」

楽しそうに言われ、琴音は相槌を打つ。

「ユウちゃんの好きなもので良いよ」

「じゃあ、ブランコね!」

 まだ、幼いユウはブランコを上手く漕げないのだ。
 だから、いつも琴音が後ろから漕いであげるのだ。ー琴音には妹がいるので、そういうことには馴れている。