大好きな君




「―らっ!!……さくらっ!!」


「―っうわっっ!」


ビックリして目がチカチカするのと同時にガシャッって何かが落ちた音がした


「なにやってんのさーもうっ」



その声と同時に床にしりもちをついた私の目の前に
外はね気味の漆工芸みたいに煌めく髪の湊が来て

私より先に落ちた筆箱とその中身を拾ってくれた


「ありがと、湊」

「まあ、驚かせたのは事実だしさっ」


はにかみながら言ってる湊はやっぱり優しかった


「それよりもさ、どうしたの?一時限のアレ」


言いにくくならないようにしてくれて、あの声と笑顔が私の嘘つきな心を咎めた



「あのね、
その・・・・・・


七瀬の声がすごく怖かったから

したら変えるっつってて

安心したら泣いちゃってなんか


なんかね」


伝わりにくいのは百も承知かもしれないけど気味悪がられたくはなくって

考えながら言ってるもんだから

実際どのくらい時間がかかったかは解らないけど
ゆっくりゆっくり話す私を湊は飽きもせずにゆっくりゆっくり聞いてた


「まあ、さくらは敏感だからね」


四月の始めごろ
オリエンテーションで湊が凄く冷静に、隠すように
ふざけて人を傷つけたクラスの子に怒ってたときに泣いた私を見てから

湊は私のことをそういうふうに見てたって言う


多分、そうじゃないかもしれないって思うときがないくらい

湊はそう言ってくれてる


「だからって泣いちゃだめでしょ

まったくさくらはさ、仲間外れだったりするのは何も言わない癖に

まあだから心配だけど」


ぶつぶつ言いながら湊は言ってるけど

怒ってないから


「心配させてごめんね」


って四月の始めと同じように言った