「…ゼロジ。あんたが、好きだよ。大好き」
強く強く抱き締めて、愛してる、と繰り返す。
言葉では到底足りないという事象を、初めて知る。
私はこの瞬間を死ぬまで忘れることはないだろう。
…ねえ、ゼロジ。
あんたが生涯コウを愛するように、私はあんたを想い続けるよ。
ねえ、コウ。
あんたは私の親友なんだ。
死んだくらいで逃れられるなんて、甘いんだよ。
──今の私は、自らの運命を、感傷と感情を、私という存在のすべてを、真摯に受け容れられる。
ゼロジの心音を聴きながら、私は新しい私へと変わっていく。
宿業(カルマ)を熱い鉄瓶(やかん)で煮込み、丸ごと呑み干した気分。
──これが、真実の私だ。
面会室を出て見上げた空を綺麗だと思う。
メイ、と喚ぶコウの声が蘇る。
ばーか、と小さく笑って返せば、窓からふわりと吹き抜ける風。
季節は、容赦無く確実に巡っていく。


