先天性マイノリティ




「ゼロジ、いるんでしょう!開けて!」



メイにそっくりな声だった。

…明らかに、本人?

でもおかしい、彼女は今俺の目の前にいる。


じゃあ外にいるのはメイのふりをした誰かだ、と判断をする。



「物騒な世の中だから声色ぐらいは誰にでも真似が出来る、用心しろ」、とコウが言う。


…そうか、色々と危険だ。

玄関の鍵は絶対に開けないでおこうと決意をする。



「開けて!お願いだから!」


「キサラギさん、落ち着いて」



暫く経っても玄関先の声は大きくなるばかり。


不安が増す俺に、「コウ」が神妙な顔をして恐ろしいことを言う。


「あいつらはお前の命を狙ってる」と。


続いて、「メイ」は「やられるぐらいならやり返しなよ、ゼロジ!」と煽る。

俺はわけもわからずに、怯える。

寝ていないから体力も落ちているし、殺人犯と揉み合うだけの気力もない。

…このままでは、死んでしまうかもしれない。


それにもしも相手が無差別殺人犯だったりしたら、コウとメイだって危ない。


コウたちと離ればなれになるのも、二人が傷つくのも絶対に嫌だ。


扉を叩く音は強くなり、もうひとつの新たな声が加わると玄関の鍵をがちゃりと回す音がした。



「やつらが来るぞ!」


「頼むよ、ゼロジ!」



二人の声に圧されてふらつく躰で立ち上がり、衝動のままにキッチンの引き出しから小型の果物ナイフを取り出す。


…こんな武器で二人を守れるだろうか。


意気地無しの俺は腰が引けそうになるが、考えている暇はない。部屋のドアが勢い良く開くのと同時に、切り掛かった。



刃先が男の腕に刺さる。



肉の感触。



鮮血がフローリングと白い壁を汚す。



悲鳴。