先天性マイノリティ




──真っ赤な歌詞カードには、こう書いてある。

「Re:tire」のボーカルの最期の遺作だといわれている曲だ。



『地球が丸いというのなら、きっと心臓にも重力があって、君と謂う宇宙の中に息づいているんだ。

野垂れ死んでも言葉は死ぬことはない。

躰が死んでも心が死ぬことはない。

僕が死んでも君は死ぬことはない。


何故なら、君は僕の神さまだから。


僕がいなくなっても泣くことはない。


僕が消えても嘆くことはない。


僕が死んでも君は死ぬことはない……』






耐えきれずにメイが嗚咽を漏らす。

印字された言霊の上に涙が落ちて透明な水滴が伝う。

くしゃくしゃに丸めた紙くずのようにみっともない顔でメイと抱き締め合う。


男女だとか恋情だとか、不躾な欲はここにはない。

水分を吸った柔らかい包帯が僅かに重みを増す。


──今この部屋に、親の愛情を知らない子供が二人。


恵まれない環境で自分を圧し殺して来た互いの、コウという大切な拠り処の喪失。

現実とという揺り篭の中で、ただひたすらに泣く。


命がなんなのか、この世界がなんなのか、死んだらなんなのか、生きているからなんなのか。


すべてが少しもわからないまま、底無しの涙と平衡感覚を喪った感情を吐露する。

俺たちに、これ以上失うものがあるとしたら互いだけだ。


コウが好きだった。

コウが大切だった。

コウが支えだった。


恋人、親友の垣根も曖昧なまま、世界で、宇宙でただひとり、ウエダコウノスケという人物の死は世界滅亡の通告と同等の大打撃を俺とメイにもたらした。


──月が太陽を恋しがっても永劫に逢えないことのように、剰りにも惨劇だ。