先天性マイノリティ




──真っ黒な歌詞カードには、こう書いてある。



『想うくらいなら求めないで。

憎むくらいなら愛さないで。

犠牲を気取って、縁執られた恋に夢を追って、殺さないでってすがるんでしょう?

愛は劇薬だと僕が研ぐと君は笑顔でそんなことないよって、尖った毒針を翳しながら。

──信じる残酷さに疲れたよ。

裏切るのが真実の愛?



笑っちゃうね、


僕のなにをも知らない癖に。』



辛辣な歌詞に反して切ない旋律が胸に刺さって痛い。


…今の俺には、聴くのがつらい。




『僕のなにをも知らない癖に』


いつまでも反響する声と音。

下降していくマイナーコードのように不安定な感情。

今まで、世間に氾濫する自殺のニュースを他人事に見ていた自分が愚かしくなる。


同時に、コウという人間について朝露の一滴ほどにも理解出来ていなかったことが、苦しい。



「…コウの恋愛観は嫌いじゃないけど、音楽や小説の中じゃないんだからもっと駄々捏ねても良かったのにね。今のコウは二次元の住人みたい」



メイの指す意味がよくわかる。

既に、コウが生きた人生のリアルが薄れている。

死という影響の波は強烈で、極端に喩えるならば、昔飼っていた犬も、いつかの日に割れたコップも、大作家の太宰治も、コウと同じ位置に来てしまう。

死は時列をも破壊する。

百年前に死んでも昨日死んでも同じことだ。

どちらにせよとてつもなく遠い過去になってしまう。

生きている人間と死んだ人間は、実在の人物と架空のキャラクターくらい物理的に離れている。


パラドックスを望む俺には呆れる。


タイムマシンの存在しない現代は、すべてに絶望的だ。